専門分野について教えてください
専門は生態学で、森林生態学の分野で学位を取得しています。
生態学とひとことで言っても、どのレベルに着目するかによって研究対象や研究アプローチも変わってきます。ミクロな部分から遺伝子レベル、個体レベル、群集レベル、そしてよりマクロな景観レベルという多様な階層があります。
私はそのなかでも「景観レベル」の現象に注目して研究しておりまして、生態系を管理する社会的側面を含めた空間スケールのことを「景観」として位置付けています。研究対象がとても幅広くて色々なデータをつなげて解析する必要がありますので、データサイエンスにおいて必須でもある「統計解析」の分野も得意としています。
その分野に進まれたきっかけは何ですか
高校時代は生物部に所属していまして、理学部の生物学科に進む予定でした。ところが生物部の合宿でたまたま登った山でカラマツという樹木の自然林を見て心を奪われまして、「これを残したい!森林で仕事をしたい!」と思い立って「森林科学科に進みます!」と進路変更をして農学部に入ります。
そこで研究をしているうちに、森林を守るためには森林だけではなくそこに影響を与えている周辺の環境も研究しなければならない、ということに気づきまして、森林のまわりの土地利用、農業やその土地に住んでいる人々の生活も含めて研究するようになりました。
現在の研究テーマを教えてください
Gtechでは、ミクロからマクロまでを研究して社会実装につなげていくというミッションがあります。
私はその中の、「景観レベルのマクロな視点から農業を見る」というアプローチで貢献していきたいと思っています。
具体的な例で言いますと、現在大学の圃場で微生物を用いた実験が進められていますが、社会実装までを考えると、大学の圃場以外の環境においてどんな結果が出るかを検証していく必要があります。そこで、大学で行われている微生物などのミクロな実験を、景観レベルのマクロな視点へとスケールアップするために、私は衛星画像を用いて分析します。
衛星画像を活用することで、水田や稲の状況、どれくらいの温室効果ガスが発生しているかを広域で推定することができます。そうして得たデータをもとに、他の土地でGtechの技術を実装した場合にどのような成果が期待できるか、という推測データを出していくことになります。

Gtech内での他の研究とどんな連携がありますか
特に、メタンガス排出量の広域評価の部分ですね。
先ほどお話した衛星観測の世界では、さまざまな種類のデータを取得することができるのですが、空間解像度の面では限界があります。そういう時は、ミクロな視点で得られる微生物研究のフィールドデータと、宇宙から得られるマクロな衛星データの中間的なものとして、ドローンによる撮影データなども活用できます。これを料理に例えると、どんな材料を集めて、どういうふうに調理すれば食べたい料理が出来上がるかを考えることが、景観生態学のひとつのアプローチに似ています。
今回は、完成させたい料理が「水田からのメタンガス排出量を推定する」というものだったとすると、材料は微生物の研究をされている先生の「フィールドデータ」であったり、スマート農業を研究されている先生の「ドローンデータ」であったりします。そこにさらに私がいつも扱っている材料である「衛星画像」も組み合わせて、どうやって調理すればよいか最適な調理法を考えていくことで、新しい成果という料理が生まれていきます。そういうところに研究の醍醐味がありますよね。
Gtechならではの研究の魅力はありますか
やっぱり、データを共有できるというところですね。私自身は生態学が専門ですけれど、一人でできることは限られています。
Gtechでは、専門外の研究室の先生とデータを共有することで、さまざまな切り口から研究結果を導き出すことができると思います。衛星画像などのデータは以前より簡単に手に入る時代ですけれど、微生物の研究者の方が自分たちの視点で採られた地道な蓄積データ、専門外の人には分からないようなデータを他の分野で活用できるというのは、Gtechができたおかげで可能になったと言えると思います。
Gtechで実現したい目標や使命を教えてください
私の研究の中に「シナリオ分析」いうキーワードがありまして、そこではバックキャスティング、フォアキャスティングなどのシナリオを開発する手法が用いられます。例えば、「将来的にこういう未来にしたい」と思ったときに、そのゴールに向けてこれをやると30年後、40年後にはこうなるのでは、という未来をあらかじめシナリオとして先に見ておくことで、実際に進む過程での様々な判断材料となります。
Gtechでは、まず私の研究の課題として、微生物を与えたときの水田のメタンガス発生についての広域推定というものがあるのですが、その研究がうまくいけば、シナリオ分析における重要な材料の一つとして活用できると考えています。私たちにとって食糧生産は不可欠なものですので、「生きていくための農業」という視点で考えたときに「どうやって環境を保全していくか」といったシナリオを考え続けていきたいです。そうして数十年後の将来にどれだけ環境問題の解決に貢献できるかを、日々の研究成果としてつなげたいと思っています。

茨城大学が発信するGtechの特徴を教えてください
世の中を変えていくという目的をもってシナリオ分析の研究に携わっているのですが、やはりそこには「技術」が必要です。
もちろん、教育や人材など色々な要素も必要ではありますが、やはりコアの部分には「技術」があると思っています。その点で茨城大学農学部は、Gtechが目指している環境保全型農業という分野ですごく歴史がありまして、他の大学と比べても長年のデータを蓄積しています。環境保全型の技術というものは、すぐに効果が出るわけではなく長年培ってようやく効果が現れるものです。
その技術の蓄積が、茨城大学のGtechの魅力だと感じています。
Gtechに関心をお持ちの方へメッセージをお願いします
私たちがテーマに掲げている環境保全型農業を実現するためには、研究や技術も必要ではありますが、どれだけ関心をもって行動してくださる方がいるか、というところが大切になってきます。大学ではオープンキャンパスもありますし、研究だけではなく学生と一緒に放棄竹林の管理方法を考えるなど地域の資源管理の取り組みも行っていますので、ぜひそういう場所で交流できれば嬉しく思います。
日々の生活の中でも、ご自身が買われる農産物が実際にどういう作られ方をしているかなど、少し意識していただけるだけでGtechの研究とつながるところがありますので、見つけていただきたいです。
学生に向けてメッセージをお願いします
茨城大学の農学部というのは、環境保全型農業のフィールド研究において歴史がありますので、ぜひ足を運んでいただきたいと思います。
また、いまの時代はどんな分野でもデータサイエンスの知見が必要とされています。高校で情報学を学ぶようになったこともあり、若者の意識もどんどん高まっていて、授業のあとに質問に来る学生さんも多くなっています。私もバージョンアップするべく日々勉強しています。
私の研究室では、実際にフィールドで動植物やその管理状態の観察をして、その野外調査に基づいたデータを解析することをモットーにしておりますので、生き物や自然に興味のある人にぜひ来ていただきたいですね。





