専門分野について教えてください
私の研究室は「生物制御化学」という名前で、生物有機化学・天然物化学を専門にしています。
昔で言えば農薬学研究室と呼ばれる分野ですが、人間が合成した農薬についての研究ではなく、植物自身が病原菌などの外敵から身を守るために作っている化学物質に関する、物質レベルの研究を行っています。
植物は、我々動物が持つ抗体や白血球などの免疫システムとは違って、ストレスを受けた時に緊急的に「自分を守るための農薬」のような物質を作り出します。
それが「ファイトアレキシン」と呼ばれる、抗菌活性を持つ物質です。我々はイネのファイトアレキシンを中心に、このメカニズムを解明しています。
現在の研究を志したきっかけは何ですか
中学生の頃に将来を考えたのが始まりです。
自分の得意なことや興味から理系に進もうと考えたのですが、理系といっても理学部、工学部、医学部、農学部など色々な選択肢がある中で、「世の中で何が一番重要か?」と自分なりに考えました。医学で人の命を救うのも素晴らしいし、工学で便利なものを作るのも大事です。
しかし、いくら病気を治したり技術が発展したりしても、やっぱり「食べ物がなければ人は生きていけないじゃないか」と、中学生なりに農業の重要性を感じて茨城大学農学部に進みました。
研究室を選ぶ時も、当時は農芸化学という分野だったのですが、その中でもやはり「農業生産」を念頭に置いた研究をしたいと思って入ったのが、今の研究室ですね。
このイネのファイトアレキシンの研究は、実は茨城大学農学部では1980年代から続いている歴史あるテーマです。それを恩師である先生方から引き継ぐ形で現在も続けています。

どんなところにやりがいを感じていますか
天然物化学の分野は、人類が今まで見たことがないような新しい化合物を見つけられる点にやりがいがあります。
実際の研究では、強い磁場を発生させる超伝導磁石を用いたNMR(核磁気共鳴装置)などを使い、炭素と水素の原子がどう繋がっているか、パズルのように構造を解き明かしていきます。すぐに医薬品などに役立つ可能性は低いかもしれませんが、人類が知っている化学物質のライブラリーを増やしていくこと自体に価値があると思っています。
そうして一つひとつ解明した化合物が、何か予期せぬ機能を持っていて人類の福祉に役立つという可能性もゼロではないのです。
研究の99%は期待外れに終わりますが、他では絶対に経験できない「研究でしか味わえないワクワク感」を得られることが醍醐味ですね。
Gtechの中で他の研究とどのようなつながりがありますか
Gtechのメインの仕事は、特に微生物を使って温室効果ガスを抑制しつつ、かつ作物の生育を良くすることです。
正直なところ、私の研究が気候変動の解決に直結するわけではありません。
ですが、実は植物自身も根から様々な化学物質を出し、病原菌をやっつけるだけではなく、自分に有利な微生物が来るように周囲の微生物集団をコントロールしていることも分かっています。
そこで、微生物の研究をされている先生との共同研究で、微生物資材を使った時に植物がどういう化学物質を作っているかを物質レベルで調べています。
また、今後の気候変動によっては、これまでとは違う病気が発生する可能性があります。
そんな時、植物がいかに多様な物質を作って菌に対抗しているかという、我々の基礎的な知見が役に立つはずです。
より効果的で抵抗性の強い作物の育種や、植物の防衛本能を高める新しい農薬の開発へと繋がると思っています。
この研究でどんな目標や使命をお持ちですか
イネは30種類以上の多様なファイトアレキシンを作ることが分かっていますが、なぜそんなに多くの種類を作るのか、病原菌との攻防の仕組みを化学的に明らかにすることです。
また、食べるお米ではない「野生イネ」のファイトアレキシンを調べて進化の過程も追跡しています。野生イネの遺伝子を活用して、食べるイネに新しいファイトアレキシンを作らせる、なんてこともできるかもしれないと考えています。
しかし、たとえ私の研究でものすごく病気に強いイネが生まれても、世界の食糧問題が即解決するわけではありません。実は食糧生産よりも流通システムの方が重要ではないかと思うこともあります。
研究を続けていると「タコツボ化」してしまうこともありますが、常に広い視野を持ちながら、自身の専門分野を地道に突き詰めていきたいですね。

これからGtechにどんなことを期待されますか
基礎研究を取り巻く環境は年々厳しくなっていて、お金の問題や人員不足で研究成果自体も減っています。
しかしだからと言って「成果を出さなくていい」わけではありません。
一つの研究室単独で研究を続けるのが難しい時代だからこそ、Gtechという枠組みを通じて他の先生方と共同研究を広げていきたいです。
そしてGtechのような共同研究では、他の先生からの依頼で新しい観点での研究に取り組むことが増えます。そこで従来では考えつかなかったような発見があり、予想外に自分たちの研究にフィードバックできる可能性があります。
そうしてさらに研究が進んでいくという好循環に期待しています。
学生さんに向けたメッセージ
研究室とは「何かの課題に対して真剣に取り組んだ人だけが成長できる環境」だと思っています。
大学卒という資格だけが欲しいなら、適当に卒論を書いて卒業することもできますが、成長したいと思って取り組むのが本当の研究だと思います。
専門知識そのものは大して役に立たなくても、一生懸命研究して得た「課題解決能力」や「コミュニケーション能力」は、社会に出てから間違いなく役に立ちます。
大学の研究でしか味わえないワクワクする瞬間が必ずありますので、限られた時間の中でも真剣に取り組んで、ぜひその面白さを経験してほしいですね。





