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研究者インタビュー

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徹底した現場主義で健康的な土壌を作るためのあらゆる可能性を提案

社会共創ユニット林 暁嵐
役職/肩書 助教
所属 応用生物学野
学歴/経歴 東京農工大学大学院 連合農学研究科 農業環境工学専攻 博士課程修了
研究
キーワード
土壌、持続可能な農業、水環境
研究者情報

専門分野について教えてください

元々は水質の研究がメインで、現在も福島の猪苗代湖の研究に携わっていますが、Gtechでは農地や土壌から出てくる温室効果ガス、N₂O(一酸化二窒素)の出方を調べています。化学肥料を使った農地の場合は計算しやすいのですが、有機質肥料の場合は不確定な点が多く難しいのです。

例えば家畜堆肥(牛糞や鶏糞など)、植物残渣、麦稈(ばっかん)など種類も豊富で、何をどのタイミングで入れると、どのタイミングでガスが出るのか予測を立てます。ガスを減らすだけでなく、地下水への影響なども含めた物質循環全体を考え、どういう土壌管理をすれば環境負荷を減らせるか、より良い予測の仕方を研究しています。

「土の健康」を守りながら、持続可能な農業を実現するための科学的なアプローチを行っています。

現在の研究を志したきっかけは何ですか

高校生の頃から河川や湖の汚れ、水質浄化に興味がありまして、茨城大学の先生が発表されていた霞ヶ浦の水質に関する論文を見て、茨城大学で学びたいと思い受験しました。

私が入学したときには論文を発表された先生がすでに退任されていたというハプニングもありましたが、様々な出会いがあり、3年生の研究室配属で「窒素」の研究室に入ることになります。その研究室ではとにかく圃場現場に出て、土壌や水質を調査しました。ボーリング調査で土壌のコアを採取した際には、土を舐めた経験もあります!

現場調査はとにかく大変ですが、外部の研究者の皆さまと一緒に汗をかいて取り組んでいくうちに、「面白い」という気持ちが大きくなって、研究にのめり込んでいきました。

どんなところにやりがいを感じていますか

私は徹底した「現場主義」です。実験室にこもるよりも、実際に圃場に出て土や水に触れている時が一番楽しいですね。

例えば、草などの有機物が腐って無機化される時、独特の匂いがするのですが、地面に這いつくばって匂いを嗅ぎ、「今、ガスが出ているかも!?」と肌感覚で分かる瞬間にワクワクします。周りからは変人扱いされることもありますが(笑)、データだけでなく、現場の空気や土の様子を五感で感じ取り、「百聞は一見にしかず」を体感できるのが研究の醍醐味です。

Gtechの魅力は何ですか

土壌中の窒素循環は複雑なので、私一人では分からないこと、例えば作物学や園芸学、微生物生態学などの専門の先生方と連携しています。

Gtechには、アイデアを出すと「それ面白そうだね、やろうよ!」と乗ってくれる仲間がいて、専門外の知見や技術を補完し合える環境があります。
また、農研機構(NARO)や国際農研(JIRCAS)ともタッグを組み、大規模な圃場でのガス測定や土壌分析に取り組んでいます。

みんなでチームとなって一つの現象を多角的に解析できるのが大きな強みです。

この研究でどんな目標や使命をお持ちですか

日本版の「ソイルヘルス(土壌の健康)」の指標を作ることです。
「ソイルヘルス」とは、植物・動物・人間を支える活力ある生態系として機能し続ける「土壌の能力」のことです。

しかし今の日本には、作物の収量だけでなく、温室効果ガスの抑制や水質保全、土の硬さといった環境面も含めて「土の健康度」を総合的に評価できる仕組みがありません。その指標を見ることで、この土地にはどういった作物が適しているか、何をどれくらい足せば、その現場の理想の土壌ができるのか、といった目指すべき基準を整えていきたいと思っています。
つまり、土壌の健康診断ですね。

これからGtechにどんなことを期待されますか

研究成果の「社会実装」ですね。私たちのデータをもとに、現場の農家さんや行政の方々に、「こういう管理方法がありますが、どう選択しますか?」と提示できるようになりたいです。
一方的な指導で「この農法がいい」「ガスを減らせ」と言うのではなく、「この方法ならガスは減るが地下水への影響はこうなる」といったトレードオフも隠さず伝え、対話できる材料を提供したいです。
そしてGtechのチーム力で、現場の実情に合った「ハッピーな農法」を社会に届けていきたいですね。

Gtechに関心をもっている方へメッセージ

「有機農業だから絶対良い」「化学肥料は悪」といった一面的な見方ではなく、多角的な視点を持ってほしいです。それぞれにメリット・デメリットがあり、適材適所で組み合わせることで、環境にも人にも優しい農業が見つかります。
日常生活をするうえでも、思い込みで一方的に批判するのではなく、互いの良いところを認めて「ハッピー」な落とし所を見つけることが大切だと思っています。

未来の地球と農業にとって本当に良い方法は何か、一緒に考えていきましょう。自給率も上げていきたいですね!

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