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研究者インタビュー

#04
捨てられているものに新たな価値を見出し企業の課題を解決したい

社会共創ユニット中村 彰宏
役職/肩書 教授
所属 応用生物学野
学歴/経歴 広島大学大学院 生物圏科学研究科 博士課程前期修了
不二製油グループ本社株式会社 執行役員 未来創造研究所 所長(兼職:2020-2024)
不二製油グループ本社株式会社 上席執行役員 最高技術責任者 (CTO)(兼職:2024-2025)
研究
キーワード
食料・食品、食料・食品流通、食品加工
研究者情報

専門分野について教えてください

私の研究フィールドは、「食品科学」の分野です。
食品素材メーカーに長く勤めていたこともあり、食品の物性を改良する新たな物性機能素材の開発と機能評価が主な研究課題ですね。使いみちの無くなった食品の副産物(バイプロダクト)を、産業廃棄物ではなく、新しく価値のある素材として再活用することに取り組んでいます。

例えば、大豆からタンパク質と油を抽出した後の「おから」に含まれる水溶性食物繊維を取り出して、乳酸菌飲料の安定剤や化粧品の乳化剤などに応用する技術を開発してきました。アップサイクルという考え方ですね。「農産資源を極限まで使いこなしたい!」というところが、私の研究アプローチです。

現在の研究を志したきっかけは何ですか

大学時代に所属していた酵素化学研究室で、植物細胞壁多糖であるペクチンの構造解析に取り組んだことが原点です。
ペクチンとはジャムなどに使われる水溶性の食物繊維(ゲル化剤の一種)のことで、レモンの果皮など通常なら捨てられている植物の副産物から抽出される素材です。じつはハッサクや甘夏の「果肉(=可食部)」のペクチンは3割程度なのに対して、「果皮(=不食部)」には7割も入っています。

この研究を通じて「捨てられていた部分にも価値がある」と気づきました。その後、食品素材メーカーに入社し、大豆多糖類の研究に携わる中で、社会実装の重要性を実感。企業としての環境配慮や利益性も視野に入れて、「使われていないものに新たな価値を見出す」バイプロダクトの活用に力を入れました。

どんなところにやりがいを感じていますか

私はフィールドの専門家でもなければ微生物の専門家でもありません。私の役割としては、社会のニーズを聞いてきて、そのニーズに合った研究アプローチをGtechの先生方に作っていただいて、その研究成果を社会へフィードバックする。そこで実装して成果が出ることでまた新しい技術につながっていく、という「つなぎ役」になれればと思っています。

社会のニーズに目を向けてこそ見える部分もありますので、先生方の取り組んでいる研究が、研究室レベルではなく、社会的に価値につながるよう、一緒に方向性を考えて行くというのもGtechでの私の使命だと思っています。

Gtechの中で他の研究とどのようなつながりがありますか

Gtechでは、植物、微生物、土壌など多様な分野の研究者が集まっていますが、私は食品の分野からこれらの技術を「社会に実装する」役割を担っています。川上から川下を繋ぐイメージで仕事をしていこうと考えています。

例えば、食品メーカーは必ず農産物を使っているわけですから、原材料に環境負荷が少ない農産物を使えるのであれば、企業としても社会貢献になります。 私自身、企業での経験が長いこともあり、「この商品を作るために、どんな原材料を使おうか。その原材料はどのような農業システムで作られていて、環境負荷はどれくらいだろうか。」と、食品作りと環境負荷への意識が常につながっています。

もちろん企業ではコストも強く意識して商品を作るわけですから、コストはGtechの研究技術と社会とをマッチングする上で重要だと思っています。

この研究でどんな目標や使命をお持ちですか

色々な困りごとを抱えている企業、特に食品企業のソリューションを提案することです。
気候変動対応や環境配慮など食品企業の事業環境は大きく変化しています。専門家に相談しながら自身のビジネスを取り巻く環境対策をしているのですが、法規制や規格も目まぐるしく変わってきています。その課題に対して先鋭的な提案ができるコアな組織に、Gtechがなれると良いと思っています。

また、Gtechは農業に関わるグリーンバイオを中心に研究を進めていきますが、川下は食品ですよね。
学生たちが、食品の生産から販売・消費までの「食のサプライチェーン」全体を考えて「自分が今後どこでどういうふうに活躍したいのか」をイメージできるように、社会実装と教育をつなげていきたいと考えています。

これからGtechにどんなことを期待されますか

食品会社もやはり農作物生産での環境負荷や、加工と流通段階でのCO₂の削減などの問題を意識される会社が増えています。BtoBの素材メーカーだけではなく、BtoCメーカーも同様です。私は、Gtechの先生方が生み出してきた茨城大学独自の研究結果をさまざまな企業で活用いただくことをひとつの目標としています。

”Gtech”はブランドではありませんが、”Gtech”のロゴが入った食品がちまたに溢れている、そのような時代が来ると良いな、と思います。環境負荷の小さい原材料の獲得に向けて、企業や行政などと共創し、世界から注目されるような大きな動きの中心にGtechがある、そんな期待をしています。

また、いま一番気になっているのは、水です。私たちは直接水を飲みますので、リスクが大きいのです。
海外の大型農園でも問題になっていますが、農業で散布した土壌改良材の中には分解されずに水系を汚染していくものがあります。水圏研究は茨城大学の強みなので、Gtechとのシナジーが出せれば、と考えています。

Gtechに関心をもっている方へメッセージ

食品会社だけではなく、農産物を作られている方々が環境負荷を抑えた農業に取り組まなければならない流れがあります。
その時に、Gtechが作っていくであろう技術をぜひ使っていただきたいなと思います。これからは農業も差別化されていくはずですので、規模の大小に関わらず、使える技術にはトライしていただきたいので、Gtechの研究にご興味があればコンタクトしていただきたいです。

また企業の皆様にも、気候変動緩和を植物と微生物の力で実現するGtechに注目していただいて、連携できれば嬉しいですね。

学生さんに向けたメッセージ

Gtechに所属している先生方の研究は、農業から食まで、まさに”Farm to Table” の多岐にわたる研究分野を網羅しています。グリーンバイオがキーワードですが、食品産業が抱える環境課題を解決する研究に取り組みたいと思う学生さんには、ぜひ茨城大学に来ていただきたいと思います。

また、私の研究室で実際に行っている、自ら食品バイプロダクトを探してきて、それを原料に付加価値がある食品素材を開発し、企業と一緒に実装するという経験は、他ではなかなか体験できないことだと思います。

また、私は社会実装の部分を重視しますので、自ら高い達成目標を設定しながら研究に取り組むことで、ただ研究するのではなく、「商品開発につなげたい」という意識を持った学生が来ます。研究室で鍛えられたその考え方は、就職後に役立っているようですよ。

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