Interviews
研究者インタビュー

#06
水稲栽培のメタンガス排出削減を叶えた微生物のメカニズムを解明したい

微生物遺伝情報解析ユニット迫田 翠
役職/肩書 助教
所属 応用生物学野
学歴/経歴 東京農工大学大学院 連合農学研究科 環境資源共生科学専攻 博士課程修了
研究
キーワード
微生物、土壌、持続可能な農業
研究者情報

専門分野について教えてください

私の専門は土壌肥料学、土壌微生物学、作物学の分野で、現在はイネ種子へ微生物を接種することにより水田からメタン排出を削減する研究を行っています。水田の土壌管理や栽培方法も含め、有用微生物の接種が、稲の生育や温室効果ガス排出、土着微生物叢に影響を与えるメカニズム解明を進めています。

研究を志したきっかけは何ですか

もともと理系ではありましたが、動物など生き物全般が好きでした。進学を決める際に、「社会や人の役に立つ」応用的な学問分野に進みたいという思いがあり、比較的興味が近かった茨城大学農学部に入学しました。

入学当時は生命科学系の「遺伝子組換え技術」に憧れていましたが、学んでいくうちに「何か新しいものをつくる」ことよりも、環境・社会・人に対して「いまあるものでより良くできる」ことがあるならば素敵なことだな、という気持ちが芽生え、微生物と稲の研究に携わるようになりました。

茨城大学は農業分野でも環境保全について研究されている先生方が多いので、そういう知識が自然と入ってきたというのも大きいと思います。博士課程の頃から温室効果ガスの研究を始めて、修了後も研究テーマにつながりを持ちながらGtechとしての研究に取り組んでいます。

現在の研究テーマは何ですか

「環境負荷を低減した水稲栽培」を目標に、微生物を利用した様々な稲の栽培管理法を研究しています。
具体的には、稲の種の表面に培養した微生物を付着させることにより、稲の生育によい影響が出て、水田からのメタン排出も減少するという結果が出ています。しかしながら、微生物がどの段階でどのような影響を与えているかは解明されていません。

私の研究では、より効果の高い微生物の接種方法や栽培方法、微生物の種類や稲の種類など、さまざまな角度から微生物と水稲栽培についてのメカニズムを解明するべく、基礎研究を行っています。

どんなところにやりがいを感じていますか

面白くもあり難しいところでもあると思うのが、「自分が考えているより事象はもっと複雑だ」ということです。
毎回仮説を立てて実験しますが、仮説と合っていることもあるけれど、「これだけじゃ説明できない!」という事象がいっぱい出てくるのです。分からないことを研究すると、また分からないことに出会う、という繰り返し。色々な要素が関わり合っているので、試験する地域が違えばまた結果も変わりますし、微生物の種類が違えばまた変わります。

そういう一見雑多でよく分からない結果にも、何らかのメカニズムが隠れているはずなので、その複雑な事象を紐解いていくところにやりがいを感じます。 世には知られていない微生物もまだまだいっぱいいますので、きっと見落としている「いい微生物がいる!」と思って研究しています。

この研究でどんな目標や使命をお持ちですか

稲に微生物を接種することで温室効果ガスの排出を減らしている、というメカニズムを明らかにしていきたいと思っています。
じつは水田からのメタン排出を削減できる微生物は、ほとんど報告されていません。これまでも土壌に直接、微生物を接種することはありましたが、私たちのように稲の種に微生物を接種する方法は、他の方が取り組んできた方法とは少し違います。

この研究を進めて行けば、農家への普及も視野に入れた新しい研究知見として価値のあるものになると思っていますので、着実に基礎研究を行っていきたいです。そしてもっと簡単に導入できる方法が見つかれば、農家さんに普及して化学肥料を減らすこともできますし、何より気候変動の抑制につなげることができますので、やはり本質に近づくためのメカニズムの解明が必要ですね。

Gtechの魅力は何ですか

Gtechには、色々な分野の先生がいらっしゃることが、やはり魅力だと思っています。私がこれまで関わったことのないような研究分野の先生もいらっしゃるので、そういう方たちと関わっていけることを楽しみにしています。

農業の生態系を考えたときに、作物もあれば、土もあり、環境や栽培管理法など、様々な要素があります。これはとても一人でカバーできるものではありませんので、お互い手の届かなかったところを助け合って、大きな視野で明らかにしていきたいです。

Gtechに関心をもっている方へメッセージ

「環境問題」というとすごく遠いことのように思いますが、「農業」という「なくすことのできない産業」をやるにあたって、環境問題の低減は絶対に取り組まなければならない課題になっています。現時点では、実際にどうすれば一番効果的なのか、という知識も技術も発展途上です。だからこそ、簡単には理解できないからこそ、興味をもっていただくことが大事だと感じています。

そして今後、私たち研究者と、皆さんの意見は必ずしも一致しないと思うので、それぞれ率直に意見を言い合えるような関係性になれると嬉しいです。世代間のギャップもあるはずですから、色々な立場の人や世代の人と交流していきたいと思っています。

学生さんに向けたメッセージ

興味を持ったことに全力集中できるのは、学生の特権ですから、大学の中で興味あることを見つけて深掘りしていく時間にしてもらいたいですね。

そしてやはり、まずは「自分が面白い」と思える研究テーマを、自分で探し出していくことが大事です。研究テーマに自分が飽きないように設定することは難しいことではありますが、「すごく新しいことをやっている」と自覚しながら研究するのは、結果がどうあれ面白いと思います。

農業生態系はとても複雑で、いくらでも解明されていないことがありますので、その面白さを分かってくれる人がいれば、ぜひ一緒に研究しましょう。

インタビュー一覧へ