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研究者インタビュー

#08
観察とゲノムの合わせ技で微生物の生き様を解明する

微生物遺伝情報解析ユニット高島 勇介
役職/肩書 講師
所属 応用生物学野
学歴/経歴 東京農工大学大学院 連合農学研究科 環境資源共生科学専攻 博士課程修了
研究
キーワード
ゲノム解析、細胞内共生細菌、菌学、分類学
研究者情報

専門分野について教えてください

専門は微生物学ですが、ここ5年くらいは特に「ゲノム微生物学」に軸足を移しています。
以前は微生物の分離培養や顕微鏡観察といった研究が中心でしたが、徐々に生命情報科学を取り入れ、微生物の設計図であるDNAの塩基配列を読み解く研究を展開しています。

具体的には、DNAシーケンスにより微生物のゲノム情報を解析し、その微生物が潜在的にどのような機能を持っているのか、なぜその環境で生きていけるのかといった「微生物の生き様」を解明します。それを農学分野にも応用し、農業や環境保全に役立つ有用な機能を持つ微生物を見つけ出し、活用することを目指しています。

現在の研究を志したきっかけは何ですか

高校時代から化学や生物が好きで、当時読んでいた漫画に出てきた根粒菌をきっかけに微生物に興味を持ちました。
空気中の窒素からアンモニアを合成する「ハーバー・ボッシュ法」、そして、「生物学的窒素固定」という空気中の窒素から肥料となるアンモニア等を作り出すハーバー・ボッシュ法と同一とみなせるような機能を根粒菌が持っていることを高校生の頃に学び、自然界にはこんなことができる微生物がいるのかと衝撃を受けたことが微生物学を志したきっかけです。

当初は根粒菌の研究ができる進学先を探していましたが、大学選びの過程で、窒素固定をする微生物には植物内部共生菌(エンドファイト)という微生物もいることを知り、エンドファイトの研究者が当時から在籍していた茨城大学へ進学しました。
しかし、大学の授業を受けていく過程で、窒素固定をするエンドファイトは主にバクテリアであり、私が目指した茨城大学の研究室では菌類(キノコ、酵母、およびカビが属する生物群)のエンドファイトを扱っていることに後から気づきました。

大きな勘違いからのスタートではありましたが、実際に目的の研究室に入り、研究テーマを探していく中で、結果的に世界的にも研究例の少ない「菌類の細胞内に棲むバクテリア」という、現在でも多くのことが未解明な研究分野に出会いました。その未知なる共生関係を解き明かしたいと考え、現在も微生物研究の道を突き進んでいます。

どんなところにやりがいを感じていますか

微生物の中には人工的に増殖させることが難しい、いわゆる難培養性のものが多く存在します。これまで私が扱ってきた菌類に棲むバクテリアも、その多くが培養の難しい微生物でした。

また、Gtechで研究対象となる土壌中の微生物、特に農業や環境保全に役立つ有用な微生物にも、同様に培養が困難なものが数多く存在します。こうした難しい研究対象に対して、ゲノム情報から機能を推定したり、分離培養や保存方法を検討したりしながら、将来的な利活用につなげていくことに大きなやりがいを感じています。

また、農業や環境保全に役立つ微生物のDNAシーケンスにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。これは菌類に棲むバクテリアの研究で得た経験ですが、例えば微生物の分離に成功しても、その後に細胞数を十分に増やすことができず、DNAシーケンスに必要なDNA量を確保できないことがあります。培養が難しい場合には、微生物を分画・回収して解析に使える細胞を集めることもできますが、それでも得られるDNA量はどうしても限られてしまいます。

こうした「あと一歩足りない」状況を乗り越えてゲノム解読を可能にできれば、より効率的に微生物のゲノム解析が進み、微生物研究に取り組む先生方の研究を後押しできると考えています。

Gtechの魅力は何ですか

最大の魅力は、土壌・植物・微生物の基礎研究者から、栽培管理、環境工学や経済学など社会課題の解決に取り組む研究者まで、多様な専門分野の人材が集まっている点だと思います。私は微生物の基礎研究者としてこれまで研究を進めてきましたが、今後はそれら微生物の活用方法もあわせて考えることが重要であると感じています。

その点Gtechでは、微生物が関わる実践的な農業利用展開を推進している経験のある研究者が複数在籍しており、微生物学者の目線だけでは思いつかない、微生物の使い方やその根拠をセットにした「パッケージ」のような形で、企業や社会に提案できるポテンシャルがあると感じています。

この研究でどんな目標や使命をお持ちですか

農業や環境保全に役立つ微生物を探索し、培養株としてコレクションを進め、それらにゲノム情報を付加することで、Gtech内、さらには社会へ提供することで貢献します。
また、人間と同じように微生物にも個性があり、同じ種であっても複数の培養株の観察やゲノム解析を進めると、それぞれの違いが見えてくると思います。
さらに、微生物は環境中で単独で生きているわけではないので、微生物同士の関わりも考慮する必要もあり、菌類に棲むバクテリアの研究経験で培った技術が活かせると思います。

これからGtechにどんなことを期待されますか

農業に関わる方々が取り入れやすい技術が生まれることを期待しています。
また、Gtechの研究が組み合わさることで、「なぜ効くのか」という根拠のある新しい農業資材や技術が生まれてくるはずです。

茨城でうまくいったものが、環境や条件の違う地域でも応用できるような、共通の解決策につながっていくといいですね。

学生さんに向けたメッセージ

今は農学や生物学に限らず、あらゆる分野で情報解析を活用することが欠かせなくなっています。
しかし、だからこそ「観察」を大切にしてほしいです。

私自身、学生時代に微生物を観察した経験のおかげで、微生物を培養しているときに違和感を感じ取ったことが情報解析に活きたことがあります。情報解析技術は日進月歩で変わりやすいですが、生物観察の重要性は変わりません。

まずは目の前の現象を観察して、独自の着眼点に基づく仮説を見つけてから情報解析に臨むことで研究対象への解像度が上がり、研究が楽しくなると思います。

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