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研究者インタビュー

#02
天然物化学・生物有機化学の観点からいままでにない農業資材を作りたい

微生物遺伝情報解析ユニット戸嶋 浩明
役職/肩書 教授
所属 応用生物学野
学歴/経歴 慶応義塾大学大学院理工学研究科 理学専攻 博士課程修了
研究
キーワード
天然物化学、生物有機化学、二次代謝産物、有機合成
研究者情報

専門分野について教えてください

天然物化学や生物有機化学という分野で、生物現象に関わる化学物質の機能を解明する研究を行っています。
生物が作り出す一次代謝産物と二次代謝産物がありますが、その中でも二次代謝産物を対象にした合成研究ですね。一次代謝産物というのは、生物が生きるために絶対必要な、糖質、タンパク質、脂質、核酸などの物質のこと。それに対して二次代謝産物というのは、その生物が生きるために必ずしも必要ではない有機化合物ですが、他の生物に対して何らかの機能を示すものが多いです。


二次代謝産物の例として一番分かりやすいのは、抗生物質ですね。Aという生物がBという生物をやっつける際、Aの生物は自ら抗生物質を出してBの生物を弱めるのです。微生物から二次代謝産物(抗生物質)を取り出し、化学構造を決めて、それが生物にどう機能しているか仕組みを調べていくことにより、医薬として感染症対策などに応用できるというわけです。
つまり、生物が創り出す天然資源である二次代謝産物を、人工的に化学合成で作って応用展開していく研究です。

現在の研究を志したきっかけは何ですか

高校時代から化学が好きで、化学系の分野で卒業したいと思っていました。化学にも色々な分野がありますが、大学では有機化学系の天然物(二次代謝産物)を対象にする研究室で、天然物の生物機能をどうやって化学で説明できるか、について研究を深めていきました。その中でも「合成化学」という分野に強く惹かれていきました。

理工系で大学4年・修士・博士と研究を重ねた後に、一度、製薬会社に就職しました。化合物を使って人類に貢献できる最も目に見える形が医薬でしたからね。その後、ご縁があり農学系に入りまして、現在の研究へとつながっています。ただ農学系に入ったからといって直接農薬の合成などを行っていたわけではなく、大学時代から携わってきた天然物化学や生物有機化学という分野から、農学系に貢献できるような研究をしています。

どんなところにやりがいを感じていますか

天然物化学研究者の世界では、世の中でまだ誰も全合成していないものを一番につくろう!という競争があるので、そういうものを作った時は、「やったぜ」という気持ちになりますね。結果が出れば論文も発表できますし、それをベースにまた新たな研究ができ、さらにどうやったら効率的に作れるかを追及することで医薬品や農薬などへの応用展開が図れますからね。

研究の過程は地道な作業を積み重ねて、山登りのように一歩ずつ登っていきます。途中、何度も転んだりしながらコツコツと。だから、ゴールしたときは本当に嬉しいですね。

現在の研究テーマは何ですか

温室効果ガス削減をめざした、カルコン関連物質の化学合成です。カルコンというのは二次代謝産物のひとつで、植物の中に入っているフラボノイドとか、ポリフェノールの仲間です。元々、人間が普段から摂っている植物に含まれているので、農薬として撒いたとしても安全性において問題がない可能性が高い化合物と考えられます。

ただ、人工の化合物を撒くということは土壌への負荷や周辺の生態系や環境への影響も考えなければなりません。農業は環境へも人間の生活へも直結していますから、やはり安全性は一番に考えながら研究しています。

Gtechの中で他の研究とどのようなつながりがありますか

他の先生方が研究されている遺伝子の解析で、既に水田でメタン排出削減に関わる微生物の遺伝子配列が分かっています。でも、遺伝情報が分かったからといって、すべての生物現象が分かるわけではありません。

そこで私が今回のGtechで求められている役割としては、遺伝子側からではなく、二次代謝産物側からの研究です。これまでの研究の知見を当てはめると、他のチームが導き出した遺伝子配列に基づいて「こういう二次代謝産物を作っているのではないか?」と推測を立てられるので、その候補となる化合物や構造を変えた化合物を作ります。そうして作った化合物を使ったこれまでにない切り口で(微生物、植物、土壌、化合物の相互作用)、温室効果ガス削減につながる働きを見つけていくのです。

この研究でどんな目標や使命をお持ちですか

いままでにない農業資材を作る!ということですね。
Gtechでは、微生物+植物+土壌+生育環境すべてを含めた中で、どのように温室効果ガスやメタン排出を削減していくかを研究していく必要があります。その中で、新しい機能を持つ二次代謝産物が見つけられるのではないか、と考えています。

研究するうえでは、「ケミカルバイオロジー」という言葉がありますが、現代ではその研究手法がどんどん開発されていて、できることが増えています。たとえば、二次代謝産物を生物に与え、細胞内で瞬時に化学反応させることができます。それにより情報伝達に関わる一次代謝産物(タンパク質)の機能解明につながるわけです。そういう技術をどんどん活用しながら、「環境に安全なものを作る」という意識を忘れずに研究していきたいと思っています。

Gtechに関心をもっている方へメッセージ

私たちは温室効果ガス削減という目標を掲げていますが、それよりまず一番身近なテーマとして「農業」があると思っています。

農業というのは、人間の食料生産活動として絶対に必要不可欠な営みです。その農業を営んでいくこと自体が、地球環境に貢献できるものだと思って活動していただきたいです。

学生さんに向けたメッセージ

生物は化学で解明できます!
コツコツとあきらめずに研究していければ、必ず成功体験となり、自信になります。私自身、大学時代に積み上げた研究の成功体験が、いまの研究意欲につながっています。
一緒にトライ&エラーしながら、新しい化合物を発見しましょう!

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